クリニック通信

生活習慣病としての気分障害②

生活習慣病としての気分障害②

うつ病や双極性障害といったいわゆる気分障害と呼ばれる疾患は、現代人の生活習慣とも密接に結びついている面があり、最も大事なものはおそらく、睡眠時間や睡眠覚醒リズムの問題でることを前回お伝えしました。

 

今回は、「うつ」と運動の関係についておつたえします。

 

かなり昔から、運動には「うつ」を改善する効果があることが知られており、近年ではその科学的根拠となる事実が理解されています。
その一つが脳由来神経栄養因子(BDNF)です。BDNFは脳の神経細胞を刺激して活発にしたり、神経新生(新たな神経細胞を生み出し成長させること)に関わっている物質で、抗うつ薬の効果の少なくとも一部はこのBDNFを増加させることによるものであることが示されています。
簡単に言ってしまえば、運動すると脳の中でBDNFという神経細胞を元気にする物質が増えて、そのことは抗うつ効果を持つであろうということです。事実、週3回、30分のウォーキングをすると、軽症うつ病では抗うつ薬投与に匹敵する改善効果があるだけではなく、再発リスクも薬物療法のみの群と比べて3分の1と少なかったという報告があります。この例のように、必ずしも激しい運動は必要なく、散歩でも効果が期待できるのです。

 

「うつ」の症状が強いときは、運動する気力さえ湧かないわけですから、治療に使うには工夫が必要ですが、まずは「予防的な効果」はもっと注目されてよいと思います。
おそらく、一人で黙々とトレーニングするよりも、気を許せる仲間と楽しみながら定期的に運動をすることが最も長続きするやり方と思われます。
私が産業医で関わっているある工場では、従業員の運動量が全国平均を下回っています。地方のため、通勤や日常生活が車中心であることが最も大きな原因のようです。
職場の限られた時間で十分な運動をやっていただくのは限界があり、せめてもと昼休みに体操することを奨励していますが、なかなか浸透しません。「楽しくやる」という要素が足りないせいだと思っていますが、まだ良い解決を思いついていない状況です。

 

「運動する時間が取れない」という訴えも患者さんからよくお聞きします。自分自身を振り返っても、普段は仕事で時間を取られてしまい、運動の時間を捻出することは難しいなと感じます。
しかし、短い時間で効率的に運動する方法もない訳ではありません。それは、登りの坂道や階段を利用するやり方です。今はエスカレーターが普及していますが、足腰に問題なければ、階段を使おうということです。
私は山登りの前の2週間は、クリニックのビルの1階から10階まで階段で登る練習をします。
かかる時間は10分以内ですから、これなら昼休みにもできるわけです。下りは膝に負担がかかりすぎることがあるので、登りだけにするのが安全です。ただ、短い時間でやれるのはいいのですが、あまり楽しくないことが欠点です。

 

日本橋メンタルクリニック
院長 小澤公良

日本橋メンタルクリニック

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