患者さんの成長に関われること
本当に時々でしかないのですが、治療を終えた患者さんから、嬉しい手紙を頂けることがあります。
メンタル不調に陥るということは、非常にしんどい、嫌な体験である一方で、それをきっかけに自分を見つめ直したり、さらに成長することにつながったりする場合があります。そんな時、そのことに関わることができることが私の喜びでもあります。そんな一例です。
その患者さんは、2年以上前より腹痛と下痢に悩まされていました。胃腸科でも診断がつかず、なんとなく、仕事上のストレスが症状に結びついているのだろうな・・・とは思っていながら、メンタル系の病院には抵抗があり放置してきましたそうです。しかし、電車も途中下車を繰り返すようになり、出勤も困難になりました。さすがに、これはおかしいと思って、当院に来てくださりました。
治療の過程では、いろいろなことを考える時間をもてたそうです。今までの人生で、自分で何かを決めて選んだことが少なかったことに改めて気づいた結果、3ヶ月の休職の後、退職という選択をしました。「それを決めるまでが葛藤の日々でした」と手紙にはつづられていました。両親にしてみれば、6年勤務した世間的にも立派な会社であり、退職することは無いんじゃないかと・・・。それに、転職するなら、一旦戻って、次を見つけてから辞めればいいじゃないかと・・・。もっともな正論ですよね。それでも、その患者さんは、自分の中では、会社が嫌いになったわけではないが、もう戻るところではないと感じていたそうです。
診察の時、「失敗してもいいじゃないですか。自分の人生なんだから、自分で選んでいいんですよ。自分が納得して選んだ道なら、失敗してもそれがまた糧になるのではないでしょうか。」と私に言われて、当たり前のような言葉ですが、自分にはそれがなかったのだと気づいたそうです。
「両親の顔色を伺い、世間体や社会的安定などにとらわれて生きてきましたが、そんなものは一度抜け出してみたら大したものではなかったと今は思えます。ありがいことに希望した業界での内定をいただいた時に、妹からこう言われました。「お姉ちゃん、初めて自分で決めて動いて成功したね。」本当にその通りです。新しい業界では一からのチャレンジです。きっと悩んだり考えたり、苦労も多いと思います。でも、自分の選んだ道ですから、頑張れると思います」と手紙は結ばれていました。
この患者さんのこれからの人生が実り多きものであるよう祈っています。