「生きづらさ」の正体は?大人の発達障害と向き合う
「周りとうまく馴染めない」「一生懸命やっているのに空回りしてしまう」「仕事でケアレスミスが続く」「片付けがどうしても苦手」そんな生きづらさや孤独感を感じたとき、映画は時に、言葉にならない私たちの心の内を代弁してくれます。私は映画が大好きで、映画に救われた経験も数多くあります。
今回は、発達障害の特性を鮮やかに描いた名作映画を入り口に、当院で行っている心理検査と診断についてお話しします。
1.「大人の発達障害」とは?
発達障害は、脳の働き方の違いによるものです。子どもの頃は目立たなくても、社会人になり、複雑な人間関係やマルチタスクを求められる環境に置かれることで、初めて表面化することがあります。
主な特性には、以下のようなものがあります。
- ADHD(注意欠如・多動症):集中できない、忘れ物が多い、衝動的に行動してしまう。
- ASD(自閉スペクトラム症):対人関係が苦手、強いこだわりがある、感覚が過敏。
- LD(学習障害):読み書きや計算など、特定の学習が極端に苦手。
ここで強調させて頂きたいこととして「障害」とは、個人の欠陥ではありません。「今の社会が求めるルール」と「その人の特性」がぶつかったときに生じる、相対的な摩擦と考えられます。社会が求める規範や価値観も時代によって変遷していく事も珍しくありません。
発達障害は、白か黒か、あるいは有るか無いかではっきり分かれるものではなく、私も含めて誰もがそのグラデーション(連続体)のどこかに位置しています。濃淡の差はあれど、私たちは皆凸凹を抱えながら生きています。誰もがこの不完全な世界に生きる不完全な存在なのです。
2.映画が教えてくれる「特性」のグラデーション
■ 『レインマン』:類まれな能力と、社会生活の困難さ 言わずと知れた映画史に残る名作です。名優ダスティン・ホフマン演じるレイモンドは、驚異的な記憶力を持つ反面、急な予定変更にパニックを起こしたり、独特のルーティンに固執したりします。これは自閉スペクトラム症(ASD)の特性を象徴的に描いたものです。弟役のトム・クルーズの熱演も光る感動的なロードムービーです。
■ 『アイ・アム・サム』:純粋な心と、社会的な「苦手」 ショーン・ペン演じるサムは、知的障害がありながらも娘(ダコタ・ファニング)を深く愛しています。親子の愛情にビートルズの名曲が花を添えます。彼が直面する社会的な壁は、私たちが「普通」としているルールが、いかに一部の人にとって複雑で不親切であるかを問いかけます。変わるべきは社会の方かもしれません。
■ 『シンプル・シモン』:自分だけの宇宙と、心地よいルール アスペルガー症候群(ASD)のシモンは、変化が苦手で、自分のルーティンが崩れるとパニックに陥ってしまいます。しかし、彼にとっての「円盤(ドラム缶)」の中が安心できる場所であるように、誰にでも自分を守るためのルールがあります。彼が兄のために「完璧な恋人」を探そうとする姿は、不器用ながらも独自のロジックで他者を想う温かさを教えてくれます。
これらの映画に共通するのは、「特性があるからといって、その人の人間性が損なわれるわけではない」ということです。一方で、現実社会では映画のような劇的なサポートが得られず、一人で苦しんでいる方も少なくありません。
当院における発達障害の診断・診療の流れ
当院では、「生きづらさ」を感じている方がご自身の特性を正しく理解し、これからの生活の「攻略法」を見つけるためのサポートを行っています 。発達障害は「脳の働きの違い」によるものであり、誰もが持っている「グラデーション(連続体)」の一部です 。
- お話を聞く(問診)
まず医師が、現在どのような困りごとがあるかを詳しく伺います 。
- 生活史・養育歴(成育歴)の聞き取り: 子どもの頃の様子やこれまでの歩みを振り返ることは、診断において非常に重要です 。
- 客観的な資料の活用: 必要に応じて、母子手帳や通知表(先生の所見欄など)をご持参いただいたり、ご家族(養育者)の方からお話を伺ったりする場合もあります 。
- 特性を可視化する(心理検査)
医師が診療上の必要性を判断した上で、客観的な数値で特性を分析する心理検査を実施します 。
- WAIS-IVなど(知能検査): 視覚情報と聴覚情報のどちらに強いか、同時並行の作業が苦手かなど、脳の得意・不得意のバランスを測定します 。数値として結果は出ますが、現代都市型社会が要求する思考様式が反映されています。あくまで「今の社会で適応するための能力」を測っている意味合いが強いと言えますが、今の社会であなたが少しでも楽に泳ぐための『ヒント』として活用します。
- AQなどの心理検査: 自閉スペクトラム症(ASD)などの傾向を多角的に把握します 。
- 多角的な診断とフィードバック
診察で伺った内容と心理検査の結果を総合的に判断し、診断を行います 。
- 自分の「取扱説明書」を手に入れる: 検査結果を通じて自分の「得意・不得意の地図」を知ることで、仕事の進め方や人間関係の築き方が具体的になります 。
- 合理的配慮への活用: 自分の特性を周囲に説明する際の材料となり、職場や学校での支援・配慮に繋げやすくなります 。
- 診断後のサポートと治療
診断はゴールではなく、より良く生きるためのスタートです。
- 環境調整とアドバイス: 特性に合わせた環境の整え方や、考え方のクセを整理するための具体的な助言を行います 。
- 薬物療法: ADHDなどの症状や二次的な気分の波や不安等により日常生活に大きな支障がある場合は、お薬による症状緩和も検討します 。
保険診療と費用について
当院では、患者様の経済的な負担にも配慮し、心理検査を含め「保険診療」の範囲内で検査・診断を行っています 。 「自分を知りたいけれど、費用が心配」という方も、まずは診察にてお気軽にご相談ください 。
一人で抱え込まず、あなたの特性に合わせた「攻略法」を一緒に探していきましょう 。
