クリニック通信

うつ病学会での「新型うつ病」

うつ病学会での「新型うつ病」

7月19、20日に九州小倉で日本うつ病学会が開催され、そこで「新型うつ病」に関するシンポジウムが行われました。学会としてきちんとした考えを示すという趣旨だったようですが、残念ながら議論としては中途半端に終わってしまったという印象です。

シンポジストの先生方が一致していたのは「新型うつ病」という医学的診断名は存在しないということでまあ当然です。もう一つ一致していたのは、いわゆる「新型うつ病」様の患者さんは何かしら困難を抱えているのであり援助を希求しているのだから、しっかりと治療すべきだということでした。世間ではいわゆる「新型うつ病」など甘えであって容赦ない対応が必要だということを言う人たちがいますが、実臨床に取り組んでいる先生方は「困っている人たちに何かできることをしたい」と同じように感じているのと思います。

一方で、いわゆる「新型うつ病」の本体は何かということになると、「病気か病気じゃないかの議論は不毛」「さまざまな診断が混在している」「本質的にはうつ病であり表現型が時代によって変わった」など様々で議論がかみ合ってないようでした。私としては、時に診断書を出して休ませたり健康保険で治療をしたりするのですから「病気か病気じゃないかの議論は不毛」というのはちょっとおかしい気がします。いわゆる「新型うつ病」にかなり含まれていると想像される、軽度発達障害やパーソナリティの偏りや未熟さがが背景にある適応障害、さらには、双極性障害などは、きちんと診断しないと治療方針が立ちにくいですから、本体、要するに診断の問題は重要だと思います。

医者がきちんと診断して、医療が主としてカバーできるものをきちんと峻別したうえで、おそらく残る問題は「組織が人を育てるとはどういうことか?」ということなのではないかと想像しています。そもそも「新型うつ病」というのは職場のメンタルヘルスで対応困難事例として出てきた概念です。産業医として直接いくつかの事例に関わった経験から、そのようなケースでは、問題が小さかったうちに組織がその人を育成できなかったばかりか、対立関係に発展してこじれているというものでした。どちらが悪いという議論にしてしまうと、それこそ不毛です。組織が育てにくいタイプの人が実際にいる、そういう人たちをどのように育てていくのがいいのか、どうしてもその人と組織の期待することがずれていて修正不能の場合はどういう手続きで辞めてもらうのか(辞める方が双方にとって良い場合も確かに存在します)、こういったことが求められているのではないでしょうか。

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