生活習慣病としての気分障害③
生活習慣病としての気分障害③
うつ病や双極性障害といったいわゆる気分障害と現代人の生活習慣との関係について書いてきましたが、最終回として飲酒のことを取り上げたいと思います。
結論から言ってしまうと、酒は気分障害の治療には有害です。いくつかの理由がありますので整理してみましょう。
①睡眠の質を悪化させることを介して
アルコールは寝つきを良くする作用は確かにありますが、深い睡眠を維持することにはマイナスに働きます。途中で目が覚めたり、浅い眠りになったりしてしまいます。睡眠が悪化すれば、うつ病や双極性障害になりやすいことは統計的な研究から明らかにされており、不眠症患者では健常者に比べて約2倍気分障害になりやすいことが分かっています。
②アルコールの直接作用として
アルコールは一時的には酔いという体験をもたらしますが、それとは別に習慣的に摂取すると、神経系への直接的な作用として、抑うつや気分変動をもたらす可能性があります。これは酔いとは別な減少で、飲酒後の数時間に限られるわけではなく、むしろ、酔っている時には目立たなくなることがあります。そのため、アルコールと気分の悪化を結び付けられずに、自己治療として飲酒して、さらに悪循環に陥ることがあります。
③治療薬の効果を減弱すし、副作用を出しやすくする
アルコールは上記の①、②の作用により、治療薬の効果を弱める可能性がある上に、薬物代謝を促進して、必要な薬の血液中の濃度を落としてしまう可能性もあります。また、中枢神経を抑制するような副作用が強く出てしまう可能もあります。
有害なことは分かっても、酒が唯一の楽しみだから止めたくないとおっしゃる方もいます。もっともなことと思います。唯一の楽しみを奪われたら大変ですから。しかし、ご本人も本当は心の奥で酒に頼る生き方は良くないと思っているものです。単に楽しみを我慢するというより、積極的に他の支えを見つけることが必要かもしれません。
実際の治療で困るのは、仕事上の酒の付き合いをどうするかということです。最初から飲めないというイメージがついている人ではなく、それまでよく飲んでいた人だと周囲への説明も大変です。メンタルの病気を隠したい場合は、「肝臓の数字が悪くなった」「尿酸が高くて医者から控えろと言われた」など身体的な理由を嘘でもいいので使うようにアドバイスしています。完全に飲まないということがやりにくい場合は、「乾杯の1,2杯だけにしてあとはノンアルコールで」というアドバイスもしています。