不調を感じるのに検査で異常が見つからないという方へ
もしもあなたの病気が、痛み、しびれ、熱感、冷汗、めまい、などの自覚症状(主観的感覚)が症状の主体で、検査で確認できる他覚所見がないか、あっても自覚症状を説明できるほどのものではないと医師に言われたら、その病気についての捉え方を変える必要があるかも知れません。
現在の医学-身体医学-は、主観的感覚がメインの疾患に関しては限界があるのです。あなたが、それらの異常で苦しい症状の「身体的」原因を解明し根本的治療を受けたいと望むのは、患者さんの気持ちとしては当然ですが、非現実的で結局は成功しません。近い将来、このような疾患の完全な治療が確立されるという見込みもありません。
では、医学はあなたに何も提供できないのでしょうか?
答えはNOです。実は、あなたの病気にも、ちゃんと治療法があって、改善している人たちもたくさんいるのです。上述したことと矛盾するようですが混乱しないでください。
あなたの病気は身体表現性障害といいます。
原因は不明ですが、脳内のセロトニン・ノルアドレナリン神経系の機能障害と関連しているらしいことは分かっています。不調を感じている部分の障害がメインではなく、それを感じる中枢神経の機能障害と考えた方が近いのです。体の出す信号に敏感と言い換えてもいいでしょう。ただし、「気のせい」「精神的なもの」というあいまいなものではありません。れっきとした病気で、外来患者の20%を占めるという統計があります。あなたが考えてきた病気とはちがうかもしれませんが・・・。治療は、あなたの身体、心理、行動、環境のすべてを考慮した専門的治療が必要です。残念ながら、症状を完全に取りさることは不可能です。しかし、症状が維持されるメカニズムとそれを打ち崩す方法は分かってきています。症状を消すのではなく、生活に支障がないレベルまで抑えることを目標とすれば充分に回復の見込みはあるのです。
まず大きな問題は、あなたがそういう「一見、見栄えのしない」治療を受け入れられるかということです。患者さんの中には、「自分の病気が治らないのは、医者が正しく理解してないせいだ。検査で何か見落としがあるに違いない。きっとどこかに正しく診断してくれる医者がいて、ちゃんと治してくれるはずだ。」という考えが変えられず、不幸な転帰を辿る方もおられます。そういう方たちは、無益な検査や処置を繰り返し、医療に不信感を持ちながらも依存せざるを得ず、医療者側からも「やっかいな患者」扱いにされます。初めは共感してくれていた人々も次第にそれらの憂鬱な患者さんたちから遠ざかり、患者さんは孤独になります。残念ですが、ここまで行くと、回復は非常に困難になってしまいます。われわれは、あなたがそうならないうちに「本当の治療」を始められることを望みます。
それでは「本当の治療」はどんなものなのでしょうか?
この治療では、患者さんは受動的に治療を与えてもらうのではなく主体的にいろいろなことをやらねばなりません。まず、原因の詮索をやめることが要求されます。次に、あなたが自分の症状をどのように考えて、それによってどんな気持ちや行動が引き起こされているかを理解しなければなりません。これは、専門的な記録法をあなたに実行してもらうことで可能になります。この過程で、ストレスがあなたの症状に影響を与えていることも明らかになるのが普通です。このことは病気の原因がストレスだと決めつけることとは全然違うので注意してください。同時に、症状中心だった生活を立て直していくことが本質的に必要です。症状が残っていても、辛くても、やるべきことを実行することが要求されます。ここが、この治療の最大の難関かもしれません。でも、悲観的になる必要はありません。無理のない方法で徐々に始めれば成功の可能性は高くなります。具体的なやり方は診察時に医師と相談して決められます。このように、治療を進めれば、あなたの症状は完全にはなくならないとしても、改善するのが普通です。そのとき、病気中心だったあなたの生活もいきいきと充実したものになっているはずです。
薬物は効果がないのでしょうか?
上述したように、脳内のセロトニン・ノルアドレナリン神経系の機能障害と関連していることが示唆されており、ある種の抗うつ薬を使用すると治療全体を進める上で助けとなることがあります。
治療はどこで受けられるのでしょうか?
どの科の医師でも、経験と技術のある先生なら問題ありませんが、一般的には認知行動療法に精通している精神科医・心理士がベストでしょう。まず、今かかっている医師に相談してみるといいでしょう。