強迫性障害の治療とオーナーシップという概念
以前、強迫性障害を「悪魔のように恐ろしい存在」と表現する患者さんがいました。
私がその患者さんに説明したことを紹介します。
強迫性障害は「自分自身の問題で人任せでは治らない」ということは理解されているようですが、
それは、「自分の力で悪魔のような強敵に立ち向かわなければいけない」という意味ではありません。そもそも、強迫性障害を悪魔のように恐ろしいと認めてしまっていることが違うのです。
強迫性障害には、実は、そんなに強力な力はありません。せいぜい、あなたを騙して罠にはめるくらいのことしかできません。強迫性障害を強力にしているのは「あなたの考え方と行動」なのです。
分かりやすい例として、鍵の確認強迫をとりあげます。強迫性障害は擬人化した表現を使うと「鍵をかけたというお前の記憶は本当か?その保障があるのか?万が一、鍵が掛かっていなかったら大変なことになるぞ!」と患者を騙し、確認行為をさせようとします。この時、強迫性障害は「俺を信じて、確認すれば不安が和らぐぞ。でも、確認しなかったら不安は無限に強くなって、おさえられなくなるぞ!!」と巧みに患者に強迫行為を取らせます。これが病気の罠で、そうすることで、患者はますます強迫性障害という病気にはまっていくのです。ここで大切なことは、強迫性障害そのものには、恐ろしいことを起こす力もないし、あなたを不安で一杯にしてパニックに陥れる力も、実は、ないということです。
それでは、なぜ、病気を克服することが、そんなに困難なのでしょうか?それは、あなたが「病気の言うことを信じていて」しかも「病気が期待している行為、すなわち強迫行為をとり続けている」からなのです。
鍵の確認の例で考えると、「病気の言うとおり、鍵が掛かってないかも知れない」とあなたが考えてしまうことが、あなたを不安にするのであって、病気そのものではないのです。さらに、「病気の言うとおり、ここは確認しておこう」と確認行為をあなたがとることで病気に力を与えているわけです。つまり、強迫性障害が悪魔のように恐ろしく強力な力を持っているように思えるとしたら、それはあなたが与えてしまった力だということです。
「自分自身の問題で人任せでは治らない」ということの本当の意味は、自力で恐ろしい敵を克服しろ!ということではなく、「病気の考え・行動」を取るか、「健康な考え・行動」を取るかという、あなた自身の選択にあるのだということなのです。このことをきちんと理解してください。これが治療に非常に重要なポイントで、オーナーシップという概念がピッタリきます。過去に自己治療がうまく行かなかった人はこの点を見逃している場合がほとんどです。
「病気・無視・次の行動」という基本フォームを練習するときに、「本当の意味で病気と認識すること」が大切です。つまり、「今は確認しなくても、後で確認すれば・・・」「この課題の強迫行為はしないけど、別のこっちの行為をすれば不安が治まるから・・・」などと病気の言うことと取引するようでは、病気を病気と認識してないことになりますね。