減酒外来について:アルコール治療のパラダイムシフト
「お酒をやめる」ではなく、「減らす」治療があります(減酒外来のご案内)

20年以上前に私が若手医師としてアルコール治療を学んでいた頃、現場には厳しい空気が流れていました。 上級医からは「アルコール依存症の治療は、底つき体験を待ってからの断酒(一滴も飲まないこと)しかない」とよく教わったものです。当時は「依存症」という言葉に、「意志が弱さ」や「性格」の問題という偏見もまだ根強かったように思います。ですが、徐々に脳の報酬系回路を中心とした機能変化、いわゆる「脳の疾患」であることが脳科学的に明らかになってきました。
それに伴いアルコール治療も大きなパラダイムシフトを迎えました。
近年の潮流:AUD(アルコール使用障害)への呼称変更
近年の医学的知見により、国際的な診断基準であるDSM-5では「アルコール使用障害(AUD)」、ICD-11では「アルコール使用症」へと呼称が変更されました。
これは「依存しているか、いないか」という白黒はっきりした二択ではなく、軽症から重症までを地続きの「グラデーション(スペクトラム)」として捉える考え方です。※グラデーションでとらえる考え方は「大人の発達障害」の項でも触れました。 かつてのような「末期症状が出るまで待つ」や「依存症水準になってから治療する」のではなく、「最近少し飲みすぎかな?」という軽症の段階で早期介入し、適切な支援を行うことが現代のグローバルスタンダードとなっています。
「ハームリダクション」:今の生活を守りながら健康を目指す
そこで注目されているのが、ハームリダクション(実害の低減)という考え方です。 お酒をゼロにすることに縛られず、まずは「飲酒量や回数を減らす」ことで、今ある健康や生活の質(QOL)を守ることを最優先にするアプローチです。
具体的には、以下のようなお悩みを持つ方に「ハームリダクション」の考え方に基づいたサポートを推奨しています。
・健康診断の数値が気になる: 肝機能数値などが上がり、医師から「お酒を控えるように」と言われている。
・「つい、もう一杯」が止まらない: 最初は一杯だけのつもりでも、飲み始めると自分の意思でブレーキをかけるのが難しい。
・お酒による失敗が増えた: 二日酔いで仕事のパフォーマンスが落ちる、家族や同僚に飲酒量を心配されている、夜の記憶が曖昧になる(ブラックアウト)ことがある。
・休肝日を作りたいが続かない: 「今日は飲まない」と決めても、夕方や休日になるとつい手が伸びてしまう。
・断酒ではなく、長くお酒を楽しみたい: お酒を完全に人生から消すのではなく、適量を守ることで健康的に付き合い続けたい。
これまでは「底をつく(深刻な社会的問題が起きる)」まで治療の対象にならないこともありましたが、現在のアルコール使用障害(AUD)の基準では、こうした「軽症」の段階での早期介入や支援こそが、将来の深刻なトラブルを防ぐ鍵であると考えられています。(脳の慢性的な機能変化や進行を防ぐ意味もあります。)
当院の減酒外来では、根性論ではない、最新の医学的アプローチをご希望に応じて取り入れています。
①飲酒量を抑えるお薬「セリンクロ(一般名:ナルメフェン)」 当院は専門研修を修了しており、セリンクロの処方が可能です。お酒を飲む1~2時間前に服用することで、脳の報酬系に作用し、「もっと飲みたい」という欲求を自然に抑えます。結果的に飲酒量の減少につながります。『飲みたい時だけ飲む』という使い方が可能なため、生活に合わせやすく 「つい、もう一杯」が止まらない方の強い味方です。
②日常を支えるアプリ「減酒にっき」 大塚製薬が提供するこのアプリは、日々の飲酒量を手軽に可視化できます。「なんとなく飲んでいる」状態を「見える化」することが、減酒への第一歩です。
③デジタル治療の最前線「HAUDY(ハウディ)」 当院では、沢井製薬の減酒治療補助アプリ「HAUDY」を導入いたしました。これは単なる記録アプリではなく、医師の指導と連動して認知行動療法をスマホ上で行う、保険適用の「治療用アプリ」です。診察室の外でも、24時間あなたをサポートします。医師の処方が必要で、いくつかの要件があります。
