強迫性障害について雑誌のQ&Aコーナーに回答した際の記事をご紹介します。
<質問内容>
電車のつり革やドアノブなどにさわることにすごく抵抗があり、万一、さわってしまったときは、すぐにでも手を洗わないと気がすみません。ふだんから1日に何度も手を洗っているせいか、手荒れもひどくなっていますが、それでも手を洗うことがやめられません。どうしたらよいのでしょうか?
28歳/男性/福井県
<回答>
強迫性障害という病気が考えられます。強迫性障害は人口の約3%の人が罹患し、平均発症年齢は20歳前後、3分の2は25歳未満に発症します。強迫観念と強迫行為という2つの症状から成り立っています。強迫観念とは、考えたくないのに心に強く迫って浮かんできてしまう考えで、この相談者のように「汚れてしまったのではないか」という不潔恐怖はよくある強迫観念の一つです。
他には、「カギをかけ忘れたのではないか」「火の元を消し忘れたのではないか」「何かを落としたのではないか」「他人に害を与えてしまうのではないか」などの強迫観念がよく見られます。強迫観念のために引き起こされる不安感を解消しようとして患者さんが行ってしまう行動を強迫行為と言います。この相談者の場合は「汚れてしまった」という強迫観念で不安になるためにそれを打ち消そうとして「必要以上に手を洗う」という洗浄強迫(強迫行為)がセットになっているわけです。
戸締りや火の元を何度も確認する確認強迫も多い症状です。患者さんも、落ち着いている時には、強迫観念が現実的にはおかしいことを認識しており、自身の強迫行為を恥じて、他人から隠れて行っていることがあります。つまり孤独に苦しんでいる方が多いということです。
生物学的異常としては、脳機能画像研究によって脳の前頭葉、大脳基底核、帯状束の活動性が亢進していることが分かっています。また、薬理学的な知見などから、セロトニンやドパミンといった神経伝達物質のバランスが崩れていることが示唆されています。
治療は薬物療法と行動療法に大別されます。それぞれが独立して有効ですが、併用することでさらに効果が期待できます。薬物療法としては、セロトニンを調節する抗うつ薬であるSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)が第一選択です。他には古いタイプの抗うつ薬であるクロミプラミンや、必要に応じて、ドパミンを調節する抗精神病薬が投与されることもあります。
行動療法は曝露反応妨害法と呼ばれる方法が有効であることが分かっています。これは簡単に言うと、強迫観念が生じても強迫行為を行わないように訓練するということです。この相談者の場合だと、わざとつり革などに触ってみて、「汚れている」という不安が起こっても手を洗わないで、自然に不安が軽減することを学ぶ訓練を重ねるのです。病気が引き起こす不安に耐えて強迫行為をしないようにすることは大変な努力が必要です。そのため、信頼できる治療者とやり方を良く相談しながら行うことが必要です。