不安感から委縮してしまう人へ
不安は健全な欲求が存在するから起こる
例えば、志望校に受かりたいと思っている受験生は入試について不安になります。健康でいたいと思う気持ちが強い人ほど病気になるのが不安になります。仕事で成功したいという欲求があるから、失敗が怖くなります。このように、不安とはそれ自体で存在する何かではなく、「~でありたい」「~したい」という欲求があるから、その欲求を光とすれば、影のように存在する訳です。何も欲求がなければ、不安もないということです。ですから、不安を感じた時に、その不安自体を何とかするという発想ではなく、自分が持っている健全な欲求を実現するためには何が必要かを考えることが大事なわけです。例に挙げた受験生なら、「不安感をどうにかしきゃ勉強できない」と捉えるのではなく、「最大限合格する確率を上げるために今できることは何か」ということを考えて実行することが有益ということです。健康でいたいなら、将来自分がどんな病気になるかを恐れて戦々恐々として日々を過ごすのではなく、健康を維持するための健全な生活習慣を作ったり、合理的な健診を受けたりすることを実行すればいい訳です。仕事で成功したいなら、失敗することばかり考えていないで、成功確率を最大限高めるための努力をすればいいのです。
不安は安全が確保されていないという状況を教えてくれる感情で、対処すべき不安と感じるしかない不安の2種類ある
不安は自分にとっての安全が確保されていないということを教えてくれる感情です。不安を感じることは、自分がそういう状況に居ることに気付くために必要なことです。不安を感じるのは意味があるのです。先の例で挙げた受験生なら、「このままでは学力がまだ合格水準に達していない」という状況なら不合格になる確率が高い、つまり、自分にとって安全ではない状況なので、不安を強く感じるのは当然です。この場合は、対処すべき不安ということになります。そして、ここでの対処とは、合格確率を最大限高めるための適切な勉強をするということになります。これが、不安という感情の適切な活用方法になります。まとめると、不安によって安全が確保されていないことが分かり、そのために適切な対応をする、これが不安という感情を活用するということです。一方で、感じるしかない不安とは何でしょうか。この受験生が最大限努力して、模擬試験で合格可能性が80%以上という判定を連発するようになったら、不安は完全に消えるでしょうか。いいえ、以前よりは不安は弱くなるでしょうが、決してゼロにはなりません。なぜかと言うと、人間は未来のことを100%予知することは出来ないからです。どんなに優秀な人でも、合格するかどうかは試験を受けてみなければ分からないという部分がどうしても残ります。だから、やるだけやっても、不安は完全には消えません。これは対処すべき不安ではなく、人間だからこそ感じる、感じるしかない不安ということになります。感じるしかない不安は、感じるのが自然であり、どうすることも出来ないし、どうする必要もないのです。あるがままに受け入れて、自分の健全な欲求を実現するための行動、すなわち、自分にとって価値ある行動を取り続ければいいのです。そうするとき、感じるしかない不安も最も弱くなるはずです。また、感じるしかない不安は、自分が信頼できる人に話して肯定してもらうことも大切です。「そういう状況なら不安を感じるのは当然だよね」と言ってもらうことがとても大切です。不安を感じるのは当然なんだということが、信頼できる人から認めてもらうことで、より受け入れやすくなるからです。
不安を活用して、本来の欲求を実現するための行動に専念する
以上のことから、不安を感じている人がやるべきことは、不安をどうにかしようともがいて不安そのものにアプローチしたり、不安に感じることから逃げたりすることではなく、不安の背後にある自分の健全な欲求をしっかりと認めて、その実現のために重要な行動を取り続けることです。これを行動本位と呼びます。不安感そのものに注目して、不安だから出来ないとか、不安だからダメだとか考えて、自分にとって価値ある行動から遠ざかることを気分本位と呼びます。不安は活用するためにあり、そのやり方を行動本位という訳です。
結果ばかり求めることは不安を強くする
健全な欲求に向き合って、その実現を図ると説明しましたが、一つだけ注意しなければならない点があります。それは、目的を結果だけにしてしまわずにプロセスを大事にするということです。受験生の例で言えば、合格という結果が欲しいのですから、それを目指すことは当然です。一方で、合格さえすればOKで、落ちたら何もかもダメという考え方ではどうでしょうか。結果というのはどうしても完全にはコントロールできないものですし、そこに感じるしかない不安が発生するのだと上述しました。それはそうなのですが、やはり結果のみにとらわれると、コントロールできないという感覚が強くなりがちで、不安が必要以上に大きくなってしまいます。これは損だと思います。いくら、感じるしかない不安だから受け入れろと言われても、強すぎる不安では受け入れるのが困難になるかも知れません。だから、プロセスを意識することが大事なのです。受験勉強では、知識を増やしたり、思考力を高めていくというプロセスがあります。単に合格という最終結果だけではなく、そこへ至る過程の中で、どのように知識を増やしていくか、どのように思考力を磨いていくか、そのプロセスにしっかりと向き合って、ひたむきに努力する自分を作っていくのです。このことは合否という結果とは別に、自分でほぼ完全にコントロールできると言っても過言ではありません。このコントロールできている感覚が余計な不安を抑えてくれる働きをするのです。健康を大事にするなら、自分で選んだ健康な生活習慣を日々気持ちよく維持していくプロセスを大事にするわけです。それをやったからと言って、100%ガンにならないという保証はなくても、自分が大事にしたいもののために毎日の運動や食事を気持ちよくいいものにし続けていくことにある種の喜びを感じることは可能でしょう。いい仕事をしたい人は、そのために必要なスキルアップを日々続けていくこと、他人と比較するのではなく、以前の自分より少しずつ出来ることが増えていくプロセスを意識することです。自分の健全な目標に向かって、「今ここ」で出来ることに集中し、着実に歩みを進めていくプロセスをしっかりと意識すること、それが結果だけにとらわれなくするコツです。
まとめ 過去を悔んだり未来を恐れたりするより、「今ここ」を大事にする
結局、未来というものは幻想でしかありません。どうなるか想像したところで、本当のところどうなるのかは誰にも分かりません。分かりもしないことを、あれこれ考えるから不安になるともいえるでしょう。未来を恐れるような人は、過去についてもクヨクヨすることが多いのです。もう過ぎ去ってしまったこと、いくら考えてもやり直せないことをクヨクヨして時間やエネルギーを無駄にするのです。不安が強い人は「健全な欲求」が強い人でもあるはずです。だったら、自分の中にある「健全な欲求」を認めて、それを大事にして、その実現のために行動本位でやるべきことをやりましょう。未来の幻想にとらわれず、「今ここ」で自分ができるベストを尽くすのです。そうすれば「今ここ」は自分のコントロール下に置かれます。その分不安は軽減するはずです。そして、プロセスを大事にして「今ここ」を過ごしていけば、「健全な欲求」が満たされる可能性も最大化するのです。